時間領域解析として最も広く用いられているSDNNは,洞調律心拍(N)における24時間の平均NN間隔の標準偏差(正常値:141± 39msec)で,
Kleigerら56)によって提唱された.心筋梗塞後例(n= 808)を,SDNN100msec以上,50~ 100msec,50mscc以下の3 群に分けて4年間追跡調査し
たところ,SDNN 50msec以下の群では100msec以上の群と比べ死亡率は5.3倍高く,SDNNの低下は心筋梗塞後の独立した予後規定因子であった.
またFarrellら57)は,心筋梗塞発症後1週間目のホルター心電図(N= 416)のRR間隔変動のヒストグラムからtriangular index(24時間のNN間隔について
総数をヒストグラムの頂点の高さで割った値,正常値:37± 15msec)を求め,16msec未満,16~ 19msec,20msec以上の3群で平均20か月の予後観察を
行ったところ,20msec未満の群では不整脈事故は32倍,心臓死全体では7倍の高値であったとしている.その他,心筋梗塞後の死亡または不整脈事故例
では退院時のSDNNやSDANN(5分ごとのNN間隔の平均値の標準偏差,正常値:127± 35msec)が有意に低下していたとの報告58)や,平均21か月の追
跡でSDNN 70msec以下の群では心臓死の相対危険度は5.3倍であったとする報告がある59).
一方,最近は周波数領域解析も盛んに行われるようになり,ULF(0.0033~ 0.04Hz),VLF(≦ 0.04Hz),LF(0.04~ 0.15Hz),HF(0.15~ 0.40Hz)
に分けるとともに,LF/HFを求め,それぞれの指標の変化と自律神経変動との関連性が検討されている.Biggerらによる一連の研究により,心筋梗塞後の
患者では健常者に比して,それぞれULF,VLF,LF,HFのパワー値,およびtotal powerのいずれもが有意に低下しており,経過とともに回復する現象が確
認されている60).ULF,VLFの低下と死亡率が関連し,特にVLFは不整脈死との関連が強かったとの報告もある61).また心筋梗塞1年後の慢性期でも心拍
変動低下は死亡率と有意の関連があり62),2 ~ 15分と短時間のRR間隔から求めた心拍変動解析の成績でも,心拍変動の低下は全死亡および突然死の
優れた予測因子であった63).