治療目的/所見クラスⅠ クラスⅡa クラスⅡb
二次予防
 ◦心停止またはVF/TdPの確認例ICD
一次予防
 ◦失神,突然死の家族歴または電気生理検査でVFが誘発されるの3項目のうち2つ以上を満たす
ICD
 ◦上記3項目のうち1つを満たすICD
10 Brugada症候群
 Brugada症候群は心電図で右脚ブロック様波形と,V1~V3誘導における特徴的なST上昇を呈し,主に夜間に心室細動で突然死する疾患である415),
416).本症候群は東南アジアにおける夜間突然死症候群,または我が国における“ぽっくり病”に合致すると考えられている.男性に多く,その有病率は
0.15%前後で,心室細動罹患率は0.014%と推定されている.原因遺伝子として様々なものが報告されているが,心筋のNa チャネルをコードするSCN5A以
外の遺伝子変異の頻度はいずれも低い205),222),417)-419)

 心室細動,心停止または失神の既往は高度の危険因子であり,前者では17%/年,失神の既往例では6%/年の頻度で重篤な心事故を発症すると報告さ
れている155)-159).心室細動に対してはICDによる二次予防を行う.

 無症候群の予後は有症候群に比し一般に良好であり,心事故の発症は0.5~ 4% /年と考えられている155)-159).我が国の無症候性でBrugada型心電図
のみを示す例の予後は良好とされる162),420).突然死の予知因子として心電図所見,心室細動の誘発性などが検討されている.

 心電図で0.2mV以上の自然発生のcoved型ST上昇を示す例は,6% /年で心事故を生じると報告されている156),157).有症候群にはcoved型が有意に多く
認められることから,saddle-back型よりも危険が高いと考えられている.また有症候群では,PQ間隔やQRS幅の延長,HV時間の延長416),心房細動の自
然発生が多い421),422),多棘性のQRS波形423),ST上昇の日差変動が大きい424)などの特徴があり,電気生理学的検査(EPS)で心室細動が誘発されや
すい160),161),425)

 Brugada症候群では電気生理検査で2 ~ 3連発の心室早期期外刺激で50~ 80%の例に心室細動や多形性心室頻拍が誘発される160),161),425)
60~ 80%の症例において加算平均心電図でLPを認めるが,LP陽性例は有症候群や電気生理検査での心室細動誘発群に多い424)-426).V1 ~V3より
1肋間上方での部位からの記録でcoved型のST上昇を示す例や,0.2mV以上のST上昇の領域が体表面で広い例では心室頻拍/心室細動が誘発されやす
427)
心室性不整脈が出現する例は有症候群に多い427)

 持続性心室頻拍/心室細動が誘発されると,心事故は5% /年生じ,これに自然のST上昇があれば7% /年,さらに失神を伴えば14% /年となる158),159)
しかし,心室細動や多形性心室頻拍が誘発されても,必ずしも予後は不良でないとする報告もある155),158),162).遺伝子変異の有無と予後の関係は不明で
ある149)

 TWAはBrugada症候群では有用でない.他の突然死の予知のための心拍変動, 遅延電位(LP),QTdispersionなどの検査法の意義は不明である94),
428)

 一次予防をどうするかの合意はまだ得られていない.症状,心電図所見および電気生理検査での心室細動の誘発の可否,突然死の家族歴などを参考に
ICDの適応が決められる429)(表10).少数例ではキニジン,シロスタゾール,ベプリジル,ジソピラミドが心室細動の予防に奏功することが知られている
430)-433).心室細動頻回発作に対する急性期治療としてイソプロテレノールの有効性が報告されている434)
表10 Brugada症候群における突然死予防
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心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Risks and Prevention of Sudden Cardiac Death(JCS 2010)