心筋梗塞後1年間の死亡率は10~ 20%と高値で(特に発症6 か月以内の死亡率が最大),その大半が突然死とされ,院外心停止の主たる原因となる
231),311),312).我が国では持続性心室頻拍や,ICDの適応となった重症不整脈の原疾患の約30%を占めるにすぎない11),142),237).しばしば
複数の単形性心室頻拍を示す.
(1)突然死の二次予防
心筋梗塞の急性期以降に持続性心室頻拍や心室細動が認められた例では,再発による突然死の危険が高く307),二次予防は必須で,これはICDによる
11),230),234)-236).アミオダロンやソタロールは不整脈の頻度を減少させ216),313),ICDの作動回数を減少させる248)-250).一部,カテーテ
ルアブレーションで治癒する例もある247).
(2)突然死の一次予防
心筋梗塞発症13時間以後に発生した非持続性心室頻拍は,独立した不整脈死の危険因子とみなせる314),315).非持続性心室頻拍の突然死の予測感
度は13~ 47%,特異度は75~ 93%であるが,陽性的中率は2 ~ 11%とされる316),317).再灌流療法を受けた例では突然死の危険因子にならないとする
我が国の報告もある318).また,GISSI-2 では血栓溶解療法を受けた例の非持続性心室頻拍は,梗塞後6か月における総死亡と突然死の独立した予測因
子とならないが,心室期外収縮(10個/時間以上)は予測因子になるとの報告がある316).頻発する心室期外収縮は再灌流療法の有無にかかわらず,
予後の独立した危険因子となるとする報告が多い316),319),320).1時間に10個以上の心室期外収縮例での突然死について,予測感度は25~ 42%,
特異度は81~ 88%で,陽性的中率は2 ~ 13%である311),317),321).
心機能低下(30~ 40%以下)も,独立した,しかも最も強力な突然死の危険因子となる.これに心室不整脈を合併すると,心臓突然死の相対危険度はい
ずれも認められない例の4~ 8倍に増加する.その陽性的中率は18~ 40%である276),316).心機能低下例では,単独または電気生理検査の結果を加味し
て突然死の一次予防が試みられている322).
MADIT試験140)では,心機能低下(左室駆出率<0.40)と非持続性心室頻拍を有し,かつ電気生理検査で持続性心室頻拍が誘発される例で,また
MADIT-Ⅱ 280)では心室性不整脈の有無に関係なく,より重症の心機能低下例(左室駆出率<0.30)で,ICDにより予後が改善することが証明された.
欧州の前向き登録研究SEARCH-MI では,MADIT-Ⅱ試験と同様の低心機能例に対してICDが植え込まれ,平均17か月間に30%の例で心室頻拍を,
23%でICDの適切作動を,そして11%の例でICDの不適切作動を認めた323).これらの成績は欧米のICDの治療ガイドラインに取り入れられており230),
我が国のガイドラインにも反映されている11).ただし,我が国でも欧米の臨床研究の結果と同レベルのICDによる一次予防効果が得られるかは判明して
いない.
アミオダロンも不整脈死の予防を目的に用いられているが271),272),SCD-Heft 研究では,アミオダロンによる予後改善作用については否定的な成績が得
られている282).アミオダロンの突然死一次予防効果に関する2009年のメタ解析では,心臓突然死が29%,心血管死亡が18%減少したが,肺合併症が
約2 倍増加し,全死亡率(13%)の減少は有意といえなかった324).
心不全合併例では,β遮断薬273),284)やスピロノラクトン289)により突然死は減少する.ACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬による突然死の減
少が報告されている285)-288).
虚血性心臓病では,狭窄病変の数と急性期の再灌流治療の成功や責任冠動脈の開存が得られるかどうかは,不整脈事故に関係するので325)-327),
無症候性心筋虚血を含めて心筋虚血の改善を図ることが重要である328)-330).また,欧米では多価不飽和脂肪酸の摂取が突然死予防に有用として勧めら
れている17).
(3)異型狭心症
異型狭心症では発作時に致死的心室性不整脈を認めることがある331),332).Yasueらの異型狭心症254例(平均観察期間80.5か月)の成績では,
10年生存率は93%と良好であったが,死亡例12例中の7例が突然死で,他の5例は急性心筋梗塞であった333).突然死例では多枝冠攣縮の関与が考えら
れている.またNishizakiらの心室頻拍が記録された例の平均73か月の観察では,2 例(25%)に突然死を認め,心室頻拍を伴う例では予後が不良とされ
ている332).心室細動や多形性心室頻拍が既に認められた例では,Ca拮抗薬投与による冠攣縮発作の再発予防を徹底して行う.十分量のCa拮抗薬投与
後も冠攣縮発作を認め,重症心室性不整脈を伴う場合はICDが考慮されるかもしれないが,生命予後の改善効果は不明である(表6).