1 心筋梗塞急性期の心室細動
 致死的な不整脈が発生する代表的な緊急疾患である.心筋梗塞の急性期に,左心不全徴候を伴わないで出現する一次性心室細動の発生頻度は,2.1~ 4.9%とされている294)-297).1975年から2005年の米国ニューイングランド地方の急性心筋梗塞に合併した一次性心室細動の発生頻度は,全体では4.2%であったが,2005年には1.9%に減少している298).これには急性期の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)やβ遮断薬使用の増加が関係している.一次性心室細動の出現時期は発症1時間以内が62%,4時間までが91%,10時間までで98%と発症早期に多い299).2004年から2006年のPCI 施行例についてみると,心室頻拍/心室細動の発生頻度は5.7%で,その多く(64%)はPCI 終了前に発生した300).一次性心室細動の発生リスク因子として,早期入院,男性,喫煙,狭心症既往の欠如,入院時の低心拍数,ST上昇,房室ブロック,低K血症が報告されている301)

 心室細動が合併すると院内死亡率は8.0~ 18.8%と比較的に高くなるが,治療に成功すれば遠隔期予後に影響しない294),296),297).一方,心原性ショックやポンプ失調などに伴って出現する二次性心室細動の院内発生頻度は2.4~ 10.6%で,院内死亡率は38~ 56%と高くなる294),299),302)-304).二次性心室細動の出現時期は,心筋梗塞発症後1時間以内が28%,4時間までで41%,12時間以降に発生するものが50%で,多枝病変例や心機能低下例に多くみられる295),297),303)

 発症した心室細動に対しては,心電図の監視と電気的除細動が有効な治療となる.院外発症では救急隊による除細動やAEDの効果が期待される.心室細動の発生予防には早期のβ遮断薬投与が有効である305),306)
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心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Risks and Prevention of Sudden Cardiac Death(JCS 2010)