2 頻脈性不整脈
 持続性単形性心室頻拍では,1 ~ 3連の心室期外刺激を用いたプログラム刺激により,同一波形の心室頻拍が高率(> 80%)に誘発され,診断的価値が高い123),135).単形性持続性心室頻拍が誘発された場合は,心臓にはリエントリー頻拍を来たす基盤があると考えてよい136)-140).器質的心疾患例では2波形以上の単形性持続性心室頻拍が誘発されることが多い.臨床的に記録されている心室頻拍と異なる持続性単形性心室頻拍が誘発されることもあるが,これもリエントリーの基質を示し臨床的に意味がある.

 心筋梗塞後に非持続性心室頻拍を認める心機能の低下例(左室駆出率< 0.40)では,しばしば(15~ 30%)持続性心室頻拍が誘発され,持続性心室頻拍が誘発される例では,ICDで予後は改善する.これは,突然死に不整脈死が大きな役割を果たしていることを示している141)

 拡張型心筋症は心室期外収縮や非持続性心室頻拍を高率に合併するが,持続性心室頻拍が誘発される率は低く,電気生理検査の意義は小さい142)-144).肥大型心筋症では持続性心室性不整脈が誘発されると,突然死の危険が高いと考えられているが145),心室細動または多形性心室頻拍が誘発されることが多く危険も伴うため,電気生理検査の意義についての合意は十分でない146)-148).右室機能の低下した催不整脈性右室心筋症では,電気生理検査による誘発性が不整脈事故の評価に有用という報告もある149),150)

 WPW症候群では突然死の高危険群が同定できる.その所見として,ケント束の不応期が250ないし270msec未満,心房細動時のRR間隔が250msec未満,および複数副伝導路などがある151)-154)

 Brugada症候群では,1~ 3連発の心室早期期外刺激で50~ 80%の例に心室細動や多形性心室頻拍が誘発される155)-161).誘発率は不整脈事故例や有症候群で高いとする報告と156),159),電気生理検査での誘発の有無では不整脈事故の発生は予知できないとする報告があり,評価は一定しない155),158),162)

 QT延長症候群では,プログラム心室刺激によりtorsades de pointesが誘発されることは少なく163),連結期の短い心室期外刺激により25~ 50%に多形性心室頻拍が誘発されるが,予後とは関連しない164).これらの結果からQT延長症候群における電気生理検査の有用性は限られている.

 その他,高度の耐久的スポーツ競技者で,めまい,動悸などの症状,あるいはホルター心電図で非持続性心室頻拍の記録された46名の検討では,4.7年の観察期間で18名に不整脈事故が認められており,電気生理検査での心室頻拍・心室細動の誘発群に不整脈事故が多かったとされている165).高度の耐久的スポーツ競技者全体におけるこのような例の頻度は不明である.

〈有用度〉

クラスⅠ
心筋梗塞後で動悸,前失神,失神の原因に心室性頻脈が疑われる例
心室頻拍カテーテルアブレーション後の評価
心機能低下,器質的心疾患,突然死の家族歴,および/あるいは異常心電図を伴う例における原因不明の失神の評価
クラスⅡa
心筋梗塞後で非持続性心室頻拍を合併し,左室駆出率が40%以下の例
失神の原因として徐脈あるいは頻脈性不整脈が疑われるが,非観血的検査では診断できない例
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心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Risks and Prevention of Sudden Cardiac Death(JCS 2010)