突然死の予知における自律神経系の重要性が強調されている59),85)-89).当初,イヌで前壁梗塞の回復期に運動負荷を施行し,負荷終了近くで回旋枝
領域に冠動脈狭窄を作り,虚血を誘発すると心室細動が発生して突然死を来たす群と,それに抵抗を示す群が認められた.このとき,突然死群ではBRSが
低かった90),91).臨床的にも同グループのLa Rovereにより,BRSの低い群に突然死を含めた心臓死が多いとされた92).
ATRAMI 研究(Autonomic Tone and Reflexes After Myocardial Infarction)は25施設で行われた国際研究で,1,284名の80歳以下のrecent MI 例で
BRS, 心拍変動(HRV),ホルター心電図,体表面加算平均心電図での遅延電位(LP)と予後との関係を検討した59).その結果,BRS(< 3.0),
左室駆出率および心室期外収縮数が重要な予後決定因子であった.さらに,心筋梗塞部への責任動脈,すなわちinfarct-related artery(IRA)が閉塞してい
るか再開通しているかで,このBRS< 3.0の患者の割合が異なった.IRAの開通の有無はBRS,ひいては突然死の予知因子になることも判明した93).
非持続性心室頻拍が確認され, かつBRS< 3.0, あるいはSDNNが70msec以下の群の予後は不良で,左室駆出率35%以下でBRS< 3.0の例では死
亡率が高いことも判明した94).ATRAMI研究の我が国のサブ解析でも,BRS< 3.5の群は,> 3.5の群に比較して3年間の死亡率は明らかに高い(14.3%:
1.1%,P< 0.05).
心筋梗塞では血栓溶解療法によりBRSは改善し,また軽症から中等症の心不全ではACE阻害薬によって改善する95).一方,β遮断薬投与例ではBRSの
意義は小さくなるとされる96).最近,運動療法がこの自律神経活性の補正に影響のあることが証明され,心筋梗塞の危険の脱出にはよいことが示唆されて
いる.運動は副交感神経活性のBRS改善と,交感神経のβ受容体の感受性,あるいは遺伝子発現が抑制されることで両者のバランスがとれることが理由で
ある97).
〈有用度〉
クラスⅠ
●心筋梗塞後の心機能低下例での突然死予知