4 Heart Rate Turbulence(HRT)
HRTとは代償性休止期を伴う心室期外収縮(PVC)が出現した直後の洞調律の変動を意味する.健常者では,PVC出現直後の代償性休止期による一過性の血圧低下を生じ,このため圧受容体を介して,続く2 ~ 3心拍の心拍数が上昇する.心拍の増加は血圧上昇をもたらし,次いで圧受容体を介してその後の4 ~ 8心拍で徐々に低下して元に戻る.HRTは圧受容体反射を表しており,自律神経機能の指標として使用される.HRTの最大の利点はホルターを含む心電図で容易に解析できるという簡便さと低侵襲性にある. さらに,T-wave alternans(TWA)などの他の指標では心期外収縮の出現は評価を困難にするが,HRTでは心室期外収縮をむしろ活用できる.評価は代償性休止期後のRR間隔の短縮量を表すturbulence onset〔TO(%)〕と,それに続くRR間隔延長の速度turbulence slope〔TS(ms/R-R)〕で行う.
SchmidtらがMPIP試験,EMIAT試験における心筋梗塞後の症例を対象とし,生命予後の予測因子としてHRTの有用性を示した71).このときのTOおよびTSの異常値は,TO≧ 0%,TS≦ 2.5ms/R-Rとした.多変量解析からは,これらの異常での心事故の相対危険度は3.2と高く,これは左室駆出率(LVEF)の低下による評価に匹敵していた.より症例数の多いATRAMI試験でも相対危険度は4.1と高い72).前向き研究の結果においても,その陰性的中率は96%と極めて高く,LVEF≤ 30%と組み合わせることにより陽性的中率もLVEF単独の23%から37%と上昇した73).また,TWAと組み合わせることによる有用性も示されている74).
心不全の重症度とTO,TS値は強い相関を示し75),心不全の治療効果の判定にも有用である76).心不全に対するHRTの有用性をみた大規模試験はUK Heart Trial77)とMUSIC試験78)があり,ともにTS値の異常が予後予測因子として有用であった.しかし,虚血性心筋症による心不全には高い有用性が示されているが77)-80),非虚血性心筋症での有用性については意見が分かれる81)-83).我が国の前向き研究では,非虚血性心筋症においてもTS,TO両者の異常が心事故,不整脈事故の予知に有用であった83).肥大型心筋症については有用性が示されなかった84).
〈有用性〉
クラスⅡb
●心筋梗塞後および心不全での突然死の予知
心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Risks and Prevention of Sudden Cardiac Death(JCS 2010)