洞調律時の体表心電図を加算平均して得られるQRS波の終末部の微小電位をいう.LPは伝導遅延を伴う障害心筋の存在を示す105)-107).
タイムドメイン法で,filtered QRS幅(f-QRS),終末40msecのRoot Mean Square(RMS 40),終末部の電位が40μV以下となる微小電位の持続時間
(LAS 40)を測定する.LP陽性の定義は機種によって異なる.
1980年代の多数の前向き検討から108)-111),LPは不整脈事故の予知に有用であることが明らかにされた.左室駆出率やホルター心電図の心室期外
収縮と組み合わせると,不整脈事故の発生予知精度はさらに改善される.心筋梗塞後のLP陽性例で不整脈事故(心室頻拍,心室細動または突然死)の
発生する陽性的中率は30%以下と低いが,逆にLP陰性の場合は不整脈事故が発生しない陰性的中率が90%以上と高く,ここにLPの価値がある112),113).
1990年代になると早期再灌流療法が一般的になり,心筋梗塞後のLPの出現頻度は減少した.さらにβ遮断薬,ACE阻害薬の投与により心筋梗塞後の
予後は改善し,これらに伴いLPの心臓突然死の予知指標としての限界が指摘されるようになった114).
冠動脈バイパス術(CABG)例で,左室駆出率35%以下でかつLP陽性例に予防的にICDの植え込みを行ったCABG Patch Trial115)では,平均32か月間
の観察期間でICDの有用性は認められなかった.一方,冠動脈疾患で,左室駆出率が40%以下で非持続性心室頻拍を有し,かつ電気生理検査で持続性
心室頻拍(心室細動を含める)が誘発された症例を対象としたMUSTT試験では,LPのうちf-QRS( >114msec) は不整脈死, 心停止,心臓死,全死亡と相
関し,5年間の1 次エンドポイントはLP陽性群で28 %, 陰性群で17 % と有意差を認めた116).LPが陽性で左室駆出率の低下(< 30%)の合併例は全体の
21%で,そのうち36%が不整脈死した.梗塞後のLPは突然死高危険群の同定に有用と考えられている57),116)-118).
心不全例(虚血性心疾患と拡張型心筋症)では,突然死とLPの間に有意な関係は認められないとする報告119)と,拡張型心筋症ではLPが致死性不整脈
の予知因子になるとの報告120)がある.催不整脈性右室心筋症ではLPを高率に認めるが,LP陽性例では右室の線維化が強く,右室駆出率は低下し,
持続性心室頻拍が発生しやすいとされる121).Brugada症候群も高率にLPの異常を認めるが122),不整脈事故の予知に対する有用性は確立されていない.
〈有用度〉
クラスⅡb
●心筋梗塞後の評価