心筋梗塞後のQT間隔の延長は突然死のリスクとされるが,高度の延長は先天性QT延長症候群の項で述べる.QT dispersionは,12誘導心電図での最
大QT間隔と最小QT間隔の差で,心室筋の再分極時間の不均一性の指標と考えられる20),21).一方,QT dispersionはベクトル心電図のT波ループの振幅
と幅に依存し,再分極時間の不均一性を反映しないとする報告もある22),23).QT dispersionの正常値は一般に40~ 50msecで,65msecが上限とされてい
る.
急性心筋梗塞ではQT dispersionは再灌流や24)-26)ACE阻害薬27),心臓リハビリテーション28)で縮小する.入院時のQT dispersionの増大は発症24時
間以内の心室細動の出現と関係しないが29)-31),心筋梗塞発症30日以内に心室性不整脈の発生や突然死を来たす例では,QTdispersionが顕著であると
の報告もある32).慢性期の突然死の予知因子としては,否定的な報告が多い33)-37).
DIAMOND-CHF38)やELITE Ⅱのサブ解析39)では,QT dispersionにより心不全例の全死亡,心臓死,突然死のいずれも予知できないとされるが,左室駆
出率40%以下の例では,QT dispersionの増大例(>35msec)は全死亡が多いとされる40).
肥大型心筋症や高血圧性心肥大ではQT dispersionは心臓死,突然死の予知に有用とされない.糖尿病では,全死亡と心血管死亡の予知に有用である
という報告41)と,有用でないとする報告がある42),43).
QT dispersionの増大(>70msec)は,大動脈弁狭窄症では失神発作や突然死の予知に有用とされる44),45).催不整脈性右室心筋症では65msec以上
の例で突然死が多いとされている46).
T波頂点からT波の終末点までの時間(T peak-end時間)は,その誘導が反映する心室筋の貫壁性(心内膜から心外膜)の再分極時間のバラツキ
(transmural dispersion of repolarization:TDR)を反映することが実験的に確認されている47),48).通常V5またはV6 誘導で測定するが,12誘導心電図の
平均T peak-end時間を用いることもある.
TDRは,先天性QT延長症候群,特にLQT1(後述)で運動負荷や交感神経刺激薬によりさらに増大し,torsade de pointes(TdP) の原因となると考えられ
ている49)-52).失神例では無症候例に比べてT peak-end時間の増大が顕著である51).後天性QT延長症候群ではTDRはTdPの予知に53),肥大型心筋症
では突然死や心室頻拍の予知に有用であるとの報告もある54).