治療目的/所見クラスⅠ クラスⅡa クラスⅡb
二次予防
 ◦薬物不応性の失神
 ◦有症状者
ICD
 +β遮断薬
メキシレチン*
 Mg*2
ペースメーカ
 +β遮断薬
メキシレチン*
 Mg*2
一次予防
 ◦無症状者上記薬物治療適切な運動指針
2 不整脈
(1)WPW 症候群
 無症候性であっても,若年者で副伝導路の有効不応期が短く,かつ心房細動の誘発される例では,将来,症状が出現するものが多い448).無症候例で副
伝導路の有効不応期を検討すると,約15%は250msec以下で,これにイソプロテレノールを負荷すると250msec以下の例は30%にまで増加する152)
また心房細動による症状を呈し,かつ電気生理検査で心房細動が誘発されると突然死の危険が高い448).一方,小児では電気生理検査では突然死のリス
クを予測できないとの反論もある153)

(2)心室頻拍
 5 歳以下の心室頻拍40例の経過観察で,6例(15%)に心室頻拍に関連した突然死がみられた537).また,Silkaらは平均11.2歳の心室頻拍または心室細
動蘇生例15例に電気生理検査を行った538).このうち8例は,完全大血管転位,拡張型心筋症などの基礎心疾患を合併していた.外科的治療もしくはICD植
え込みを行った例では再発や突然死はなかった.電気生理検査で心室頻拍または心室細動が誘発できた症例では6 例中2例が突然死,3 例に心室頻拍ま
たは心室細動が再発しており,心室性不整脈の積極的な治療が必要であった.心臓手術後の心室頻拍については後述する.

(3)カテコラミン誘発性多形性心室頻拍(CPVT)
 CPVTは主に幼児期以後の小児期に発症し,発症年齢は7~10歳である180),453)-457).しばしば15歳以後にも認められ,ICDの適応が検討される.
突然死の予防には,β遮断薬,ベラパミル458),フレカイニド459)などの薬物治療に加え,厳重な運動規制を行う.ICDも適応となる180),211)
左星状神経節切除術462)も適応となることがある.以上の不整脈の治療は成人に準じる.

(4)QT 延長症候群(LQTS)
 LQTSは小児期においても,心臓突然死を来たすことの最も多い疾患の1つである.我が国では学校心臓検診が行われ,無症状のQT延長を示す例は
1,200人に1人程度と考えられている539).そのうち小児期に症状が出現するのは1/10程度と推測される.新生児期・乳幼児期の発症ではLQT2および
LQT3のタイプが多く540),メキシレチンが有効という報告が多い541).また,怠薬はLQTS関連心症状出現の危険因子となる.

 薬物不応性のLQTS関連心症状が出現する場合,二次予防としてペースメーカ治療やICD植え込みが行われる542)-547).ただし,大規模な検討はない.
現在,日本小児循環器学会のLQTS患児の管理基準に関する研究委員会において,無症候例のprospective studyが行われているので,今後,一次予防
の指針ができるものと考えられる548).遺伝子異常,突然死や失神の家族歴,心電図所見(運動負荷心電図,ホルター心電図など)を参考に治療方針を決
定することになる.LQT1患児が水泳中に溺水・溺水ニアミスを起こすことはよく知られており,水泳を禁止または制限していることが多い.全例で適切な運動
指導を行うことが重要である(表20)

(5)刺激伝導系の障害
 若年者の突然死例の剖検で,刺激伝導系の異常が見つかるとの報告がなされている549)-554).頻度は2.9%程度であり,房室結節動脈の狭窄554)や房
室結節内腫瘍が認められ,家族性のものでは房室結節が進行性に破壊されていく症例551)-554),肥満者では刺激伝導系への脂肪浸潤,洞結節周囲への
単核球浸潤,房室結節や左脚の線維化,脚の分枝が心筋に挟まれる所見,房室結節が中心線維体や心房中隔へ広がっている所見553)などがある.
ただし,生前に予測し予防することは困難である.突然死予防として,家族性の房室伝導障害を来たす疾患では,ペースメーカの植え込みが有効と考えられ
る.
表20 小児期QT 延長症候群(LQTS)における突然死予防
* 新生児期,乳児期のQT延長症候群では,高度房室ブロックを伴ったLQT2,LQT3の症例が多く報告されており,メキシレチ
ンが有効であったという報告が多い.
*2 torsade de pointes(TdP)に対して
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心臓突然死の予知と予防法のガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Risks and Prevention of Sudden Cardiac Death(JCS 2010)